企業にとって「人材」は、もっとも重要な資源と言ってもよいでしょう。しかし少子高齢化やグローバル化が急速に進む中、優秀な人材を確保するのは難しくなってきています。
そんな中で、効率よく採用活動を行える方法として注目されているのが「採用ブランディング」です。本記事では、採用ブランディングについての基礎知識や、実際の企業での成功事例を詳しくご紹介していきます。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは、「会社をブランド化することで価値を高め、より良い人材確保に繋げること」を指します。
ブランディングの成功には、企業も応募者から「選ばれる側」としての意識を持ち、一貫したコンセプトで採用活動を展開することが求められます。
採用ブランディングの場としては、従来からある「企業説明会やインターンシップ」といった対面での交流は根強い人気です。また新型コロナウイルスの影響で採用活動の場は「オンライン」にも広がりつつあり、「公式サイトやSNS」といったインターネット上での採用活動も欠かせません。
「採用ブランディング」にまつわる疑問
ここでは、採用ブランディングに関するよくある疑問をまとめてご紹介します。
①そもそも「ブランディング」とは?
「ブランド」と聞くと、バッグや腕時計のような高級ブランドを連想されるかもしれません。しかし本来ブランドに値段は関係なく、「他の商品と明確に区別できる要素」が複合的にブランドを形作るのです。
たとえば「〇〇と言えば□□」といったように、ターゲットが直感的に連想してくれるようになれば、ブランディングは成功です。こういった「ブランド価値を高める取り組み」をブランディングと呼び、商品開発だけでなく採用活動にも応用されています。
②なぜ採用ブランディングが必要?
採用活動においては、「知名度の高い企業ほど応募者が集まりやすい」という傾向が見られます。そのため大手企業や広告費を潤沢に掛けている企業に優秀な人材が集中してしまい、あまり知られていない企業は採用難に陥るケースが多いです。
こういった中小企業で、もし採用ブランディングを行わなければ、どういった結果になるでしょうか。「応募者が足りず、業務に支障をきたす」、「せっかく採用した人材がミスマッチですぐ辞めてしまう」といったトラブルに発展する可能性が高くなります。
かといって、広告費に多額の予算を掛けるのはなかなか難しいです。そういった場合におすすめの手法が「採用ブランディング」なのです。応募者の目に触れる媒体で効果的なメッセージを発信することで、コストを抑えながら企業イメージをUPできます。
こういった理由から、「中小企業ほど採用ブランディングが重要」と言えるのではないでしょうか。
③採用ブランディングの効果は?
現在少子高齢化に伴い、若年労働者人口も減っています。そういった状況においては、採用ブランディングを行うことで「若手人材の採用成功率が高まる」という効果が期待できると考えられます。
また最近ではSNSの普及により、企業内部の事情が比較的分かりやすくなっています。「採用時には良いことを言っていたのに、実際に入社すると全然違っていた」という場合、口コミですぐに明るみになってしまうでしょう。採用ブランディングでしっかり対策しておけば、こういったミスマッチを防ぐことにも繋がります。
従来通りの画一的な採用活動を行っていては、若年層に響くアピールは難しいでしょう。WEBコンテンツやSNSなど、幅広いツールを駆使した採用ブランディングが求められるのです。
採用ブランディングのメリット
採用ブランディングのメリットとしては、下記が挙げられます。
- 応募者を集めやすくなる
- 採用の手間や費用の節約
- 企業価値が高まる
一般の消費者とはあまり関わりがないBtoBの企業や、地方に拠点がある企業の場合は「応募者がなかなか集まらず、人手が足りない…」という状態に陥ってしまうケースは多いでしょう。しかし採用ブランディングで他の企業との差別化が図れれば、応募者が集まりやすくなります。
また採用ブランディング化のプロセスでターゲットが明確になるため、採用の無駄がなくなりコスト削減に繋がる点もメリットです。採用した後に辞退されるといった離職率が少なくなり、業務も円滑に進むでしょう。
採用ブランディングのデメリット・課題
一方で採用ブランディングには、デメリットもあります。
- 長期的な視点が求められる
- 全社の意識統一が必要
- 継続的な維持管理が必須
採用ブランディングの企画から立ち上げには、2~3年程度の期間が必要です。一度完成したら終わりではなく、複数回の採用活動を通して改善を繰り返すことで精度が高まります。
また人事部や広報部といった対外部署だけでなく、全社を通して意識を統一する作業も求められます。採用活動での内容と実際の業務に大きな隔たりがある場合、入社後のミスマッチに繋がってしまうことが理由です。
採用ブランディングの方法や流れ
ここでは、実際に採用ブランディングを行う際の具体的な流れや手順をご紹介していきます。
ターゲットを定める
まず、採用ブランディングの最大の目的は「自社にマッチした人材を確保すること」です。「どんな人材を求めているのか」といった事項を、最初にすべて洗い出す必要があります。
また自社の事業内容や計画と照らし合わせ、各部署に必要な人数やスキルをリストアップしていきます。
自社の強みをリストアップする
「自社の強みは何か」という点をリストアップしておくと、求めるターゲットにアピールしやすくなります。その際には、競合他社との比較が役に立つでしょう。単なる売上や従業員数といった数字だけでなく、企業文化や職場の雰囲気といったポイントも重要です。
コンテンツを作成する
採用ブランディングの方針が決まったら、応募者に発信するためのコンテンツを作成します。しかしコンテンツにも様々な種類があり、それぞれの長所を使い分けて効果的に展開する必要があります。
たとえば合同企業説明会や職業紹介センターでのアプローチには、「チラシなど紙媒体」があると手に取ってもらいやすくなります。一方で実際にエントリーする段階になると「WEB採用サイト」で広く認知されることが有用です。
WEBコンテンツの場合、動画など「映像」を合わせると効果が各段にアップします。長い文章よりも、映像や音楽によるコンセプトムービーの方が内容は伝わりやすいものです。また自社採用サイトだけでなくTikTokやYoutubeにアップロードすれば、「バズる」ことで多くの方に拡散される可能性もあります。
このように採用の各段階に応じて、応募者に響くような媒体を選ぶことが大切です。
継続的に運用する
応募者に広くメッセージを伝えるには、WEBなどのツールを使って継続的に情報発信する必要があるでしょう。実際に効果が表れるまでにある程度の時間がかかるため、その間常に最新の情報を更新しておくのがおすすめです。
実際に一通り採用活動を行った後に分析を行い、改善や変更を加えてブラッシュアップしていく工程が求められます。
採用ブランディングを行うツール
ここでは、採用ブランディングを行う上で活用したいツールについてご紹介します。最近では若い世代に向けてWEBやSNSを使った手法が人気で、導入企業も増えています。
①SNS(TwitterやTikTok等)
2000年代以降、20代をターゲットとした採用ツールとして「SNS」が存在感を増しています。SNSを日常的に使っている若者は多いので、「企業との接触ハードルが低くなる」というメリットがあるでしょう。また応募者のアカウントと繋がることで、普段の様子が分かりミスマッチが防げる効果も期待できます。
主なSNSとしてはFacebook、Twitter、YouTube等が挙げられますが、特に最近注目が高まっているツールは「TikTok(ティックトック)」です。実際に2022年の株式会社Suneightによる調査では、「Z世代の就活生の80.2%が、TikTokがきっかけで企業に興味を持ったことがある」というデータも発表されています。
TikTokは主に「ショート動画」と呼ばれる短い動画がメインのSNSです。インパクトのある動画が発信できれば、「バズる」ことで知名度向上にも役立つでしょう。採用活動で導入される際には、「社員の普段の様子を面白く撮る」「自社商品を使ったコントを作る」といった事例が見られます。やはり「企業を身近に感じられる」という点が、若い世代からは人気のようです。
②採用サイト
企業独自のコンテンツである「採用サイト」は、採用活動において最も重要です。単純に応募者が会社説明会や面接に申し込むための場ではなく、自社の魅力を伝えるコミュニケーションの場でもあります。
トップページから各ページまでデザインを統一させることも、ブランディングには重要です。採用サイトの制作は社内で可能な場合もありますが、効果を得るためには専門業者に依頼するとスムーズでしょう。
採用ブランディングの成功事例
ここでは、採用ブランディングの具体的な成功事例についてご紹介していきます。採用活動の成功のために、ぜひ参考にしてみましょう。
①パナソニック
https://recruit.jpn.panasonic.com/newgrads/
大手電機メーカーのパナソニックは、「家電のイメージが強すぎる」ことにより本来の事業内容が伝わりにくく、求める人材が確保できていないという課題を抱えていました。
そういった状況を改善するため、採用ブランディングで「社員の顔」をクローズアップした広告展開を行いました。社員一人ひとりの生い立ちや仕事への思いなど、70人以上を取材して「人となり」が見えるよう工夫したのです。
こういったブランディングが就職人気ランキングでの順位アップに繫がり、応募者への効果的なアピールとして成功しました。
②サイボウズ
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m005951.html
サイボウズは中小企業向けグループウェアを手掛ける会社で、「kintone(キントーン)」などのクラウドサービスが有名です。
以前はIT企業にありがちな「ブラック」な労働環境により、「離職率28%」と定着率が低いのが課題となっていました。それを改善するため、採用ブランディングを実施しました。
具体的には、「ストーリー」を軸に据えたブランディング活動を行ったのです。チームワークを軸に「働き方のヒント」を提案するムービーを公開し、Youtubeで160万回以上再生されるヒットを記録しました。
また、オウンドメディアの認知度が低かった2012年にはウェブメディアの「サイボウズ式」を立ち上げ、自社のビジョンを広く発信し続けました。こういった取り組みを通し、離職率を4%まで抑えるという実績を納めています。
③マイプリント
https://www.myprint.co.jp/corporate/recruit/conductor/index.html
マイプリントは、結婚式や年賀状のはがきをプリントする印刷業でシェアトップの企業です。しかし年々はがきの需要は減りつつあり、社員のモチベーションも上がらないといった状態が続いていました。
そこで「祝いゴトを仕事にしよう。」というメッセージを軸に、採用活動を行いました。会社が一丸となってメッセージを発信し続けたことで採用目標人数を達成し、辞退者も0人という結果が得られました。また卒業大学の層も上がり、より難易度の高い業務にも発展しています。
まとめ|採用ブランディングで課題解決
人口減少により人手不足が大きな社会問題になる中、採用活動にも影響が出始めています。採用活動が応募者とマッチしていないと「定員割れや内定辞退」といったトラブルに繫がってしまうので、対策が必須です。採用ブランディングで全社統一的なメッセージを発信することで、よりよい採用活動に繋げていきましょう。